I'll Lead You Home (第13話)

HOME BOUND -01

ブリッジでは警報が鳴り止まず、揺れも臨界点に達していた。
「地表まで300メートル。艦長、そろそろ限界です。」
チャコティ副長が、懸念を浮かべた表情でジェインウェイを見たが、彼女は動じない。
「転送波は?」
「まだ届きません。」
ヴァルカン人の声は、焦りなど微塵も感じさせない平坦さだ。
「さらに降下!」
ベイタードが座席から振り落とされそうになりながらも、歯を喰いしばってコンソールにしがみつき、艦のコントロールを失うまいとしている。
“みんな最高のクルーよ!”
大揺れのブリッジで、ジェインウェイは突然叫び出したくなった。
“もちろんトム・パリスも含めてね!”
「艦長、地表から230メートルまで降下しました。転送可能域です!」
「転送!」
ややあって…
「艦長、パリス中尉の身体が無事、医療室に収容された。」
オペレーションコンソールからセブンの報告が上がったが、ヴァルカン人に劣らぬ落ち着いた声だ。
「やったわね! 中尉、脱出よ!」
「了解!」
目の醒めるような鮮やかさで、ヴォイジャーの艦体が地表スレスレを大きくバンクする。
可能な限りの速度で上昇し大気圏を抜けると、きらきらしい星の海が彼等を出迎えた。


フォースフィールドに背を向けてしまったパリスに、提督はなす術がないように見えた。
キムとトレスも、そんな彼らに何と声をかけたらよいのか分からず、静かに涙を流すのみだ。そのうちに提督も、とうとう膝を折ってフォースフィールドの手前に腰を降ろした。そして…

君のために命を捧げようとする者に 全てを委ねて解き放つのだ
So let it go and turn it over to
The one who chose to give his life for you

任せて欲しい 君を家まで送るから…
Leave it to me
I'll lead you home …

あの歌だ。
キムが弾かれたように立ち上がったが、パリスは動かず、涙に濡れる目をこちらに向けただけだった。
「もう止めろよ…。あんたが父さんのはずがない。何でその歌を知ってんのか分からないけど、ラミアーを俺の手で死なせるわけには…。」
「我々は死ぬわけじゃない。君たち若い種族に道を譲るんだよ。それが宇宙の摂理なら、我々に出来るのは従うことだけだ。さあトーマス、頼むからこの手を取ってくれ!」
「トム、お願いよ!」
トレスがたまらず声を上げ、

Leave it to me
I'll lead you home …

キムの歌声が耳を打つ。そしてパリスは、とうとう前に進み出た。
だが最後の最後まで彼は意地を張り通し、決して提督の手を取ることをしない。パリスはその代わり、身体ごとオーエン・パリス提督の腕に飛び込んだ。
パリス提督はそれでも不意を衝かれることはなく、息子の肩をしっかりと抱き止める。
2人の身体が触れ合ったその瞬間、トム・パリスの無間地獄が夢の彼方に掻き消えた。