I'll Lead You Home (第12話)

夜明け前 ‐04

ヴォイジャーのブリッジは、大揺れに揺れていた。
「報告!」
ジェインウェイ艦長は座席から振り落とされないよう両足を踏ん張り、椅子の縁を両手できつく掴んだまま叫ぶ。
「シールド、38%。」
即座にヴァルカン人からの反応があり、その冷静な声のもたらす効果にジェインウェイは感謝せずにはいられない。
「セブン、大気圏を抜けるまであとどのくらい?」
「この速度では、あと3分はかかる。艦長、シールドが消失するだろう。」
セブンオブナインが、キムの持ち場のオペレーションコンソールについていた。
「強化してあるなら大丈夫のはずでしょ? ベイタード、このまま降下して!」
操縦席のベイタード中尉も、両足を踏ん張り計器から目を離さずに応じる。
「ですが艦長、地表は400ケルビン以上の高温です! こんなデーモンクラスの惑星で、パリス中尉の遺体が原形を留めている可能性は…。」
「まだ遺体じゃない! 言ったはずよ、ラミアー達はずっと進化した種族だし、トムの有機体反応の座標をトゥボックが確認してるから間違いないわ。それに第一、立場が逆で下の惑星にいるのがあなたなら、この程度の危険をトムは決して厭わない!」
ベイタードが傷付いた表情で艦長を見返した。
「わ、私はただ、艦の安全を最優先にすべきかと…。」
「最もな意見だけど、今は普通の状況じゃない。この惑星の環境じゃ、地表スレスレまで降下しないとトムを収容出来ないわ。彼が戻れなければ、ベラナとハリーも失うことになるかも知れない。だからあなたにも、トムの強運を信じて欲しいのよ中尉!」
「了解、艦長。このまま降下します!」
ベイタードがついに決然とした表情を浮かべコンソールに向き直ると、艦の揺れがいくらか改善された。彼にしたって、操縦士としての力量はパリスと大差ないはずだ。それでも…と、ジェインウェイはベイタードの背中を見つめ、それよりも数センチ上にあったトムの広い肩幅を思い返して考えた。
“誰もトムには、とって代われない。”
少なくともこのブリッジに集うクルーは、皆同じ思いでいるはずだ。だからこそ、ヴォイジャーを失うかも知れない不安に耐えている。
“トム、今行くわ!”
目の前のスクリーンに映る厚い紫の雲の向こうに、ジェインウェイは呼びかけた。
“あなたが自分で思ってるより、ずっと強運の持ち主だって、私たちが教えてあげる。”


「…分かってるさ、あんた本当の親父じゃないんだろ? ラミアーと同じ種族で、最初に取引きの話を持って来たのがあんただ。あの時は確かキャプテン・プロトンで遊んでたから、ケオティカの格好で出て来なかったか?」
「その通りだよトーマス。」
フォースフィールドを挟んで提督と向かい合っていると、パリスは強い概視感に襲われた。最も本物のパリス提督は、オークランドに収容されて以降、一度も息子の面会に来たことがない。
だからパリスが思い出しているのは、逮捕直後、艦隊司令部の拘禁室に一時的に収容された彼に、別れの挨拶に訪れた父親の姿だ。
オーエン・パリスはそれほど打ちひしがれた様子でもなく、今後お前がどうなろうと、私からの援助はいっさい期待するなと言い捨てて出て行ったのだ。
その後開かれた査問会で、証言台に立つ父の姿を何度か目にすることになったが、個人的に言葉を交わしたのは結局あれが最後の機会だった。それが選りにもよって、このシチュエーションで父親の姿を借りて現れるとは…。
「今さら何を言いに現れたのか知らないけど、こっちは約束を果たしたんだぜ。あんたもさっさと、ヴォイジャーを故郷に戻してくれないと。」
「悪いがトーマス、そういうわけに行かなくなってな。」
パリスの瞳がすっと細くなった。
「まさかあんた、この俺を騙したのか? そういう契約だっただろ?!」
「君の無意識領域に、これほど辛い記憶が封じ込められていたとは想定外だったのだ。君の魂が囚われてしまったのも無理はない。我々はそこまでの犠牲を君に強いることは出来ないんだよ。」
「ハ! 今さら何偽善者ぶってんだよ? この宇宙で生き残っていくには犠牲はつきものだろ? 俺はオーケイと言ったんだぜ!」
「…だが今は? あの時とは、状況が変わったはずだ。」
「死んじまった奴の状況なんかどうだっていいだろ?! のこのこ助けになんか来てないで、お前らもさっさと地球に帰れよ!」
「君一人こんなとこに置き去りにして、帰れるわけないだろ…ッ!」
ハリー・キムの涙声に、パリスは胸を衝かれた。
「お願いよトム、素直になって! 私たちには導くことしか出来ない。ここはあなた自身が、創り上げた世界だから…。」
「さあ、この手を取るんだトーマス!」
フォースフィールドに触れる位置まで、提督が腕を伸ばしてくれたが、パリスは首を横に振っただけだった。
「…ダメだよ、出来ない。だってあんたたちには、俺の生体エネルギーがないと…。」
「もういいんだトーマス。我々は古い種族だ。次の世代に道を譲るのは、摂理であって決して君のせいじゃない。」
それでもパリスは首を振りながらフラフラと後退し、とうとう背中が後ろの壁にぶつかった。そしてそのままズルズルと床に座り込み、両手で顔を覆ってしまった。
「俺には出来ない、出来ないよラミアー!」