I'll Lead You Home (第5話)

トンネル

気がつくと、トレスとキムは薄暗いトンネルの中にいた。
「どっちに進めばいいのかしら? トゥボック?」
「待ってベラナ、あっちに小さい光が見えるよ!」
「着いたとたん、目が覚めちゃったりしない?」
「しょうがないさ。他に出口らしいところは見当たらないし。」
2人は連れ立って、光のもれる方向を目指し始める。
「ひょっとして、トムもここを通ったのかなあ…?」
「どうかしら。あいつのことだから、一気にワープ10でひとっ飛びかも知れないわよ。」
「ワープ10であの世へひとっ飛びされちゃ、残されるこっちはかなわないよ。」
しゃべり合って歩くうちに、2人は突然、明るい陽の光の下に出た。
「何だかすごく…いい天気ね。」
「それに景色も最高じゃないか?」
「…あの山よ、ほら!」
トレスの指さす方向に、鋸の歯みたいにギザギザな、山の頂が浮かんでいる。
「どうやら僕ら、正しい場所に辿り着けたみたいだね。」
“右を見たまえ。”
2人の耳に、ヴァルカン人の穏やかな声がこだました。右手には、巨大なコンクリートの箱のような、無機質な建造物がそびえている。
“あの建物が、オークランド収容所の管理センターに違いない。中に入ってパリス中尉の居所を尋ねてみたまえ。”
「了解、トゥボック。」
「思ったより、簡単に見つかりそうなんじゃない? ハリー。」
「そうかもね。でも、問題はその後じゃないかな、ベラナ。僕らに出来るのは、トムの魂を見つけてここから連れ出すことぐらいだし…。」
突然、トレス中尉の足が止まった。
「…そうだった。私たち、彼の葬儀も済ませちゃってるのよね…。もうどうやっても、彼を生きて取り戻すことは出来ないんだわ…。」
キム少尉もトレスの前で立ち止まり、長い息を吐く。
「まだ分らないよ。元気出して、ベラナ。」
「どういうこと?」
「トゥボックが言ったろ、取引に齟齬が生じたかも知れないって。ヴォイジャーがまだデルタ宙域をウロウロしてるのがその証拠だとしたら、トムだって死ぬ必要なかった、ってことにならない?」
「そんなにうまく行くかしら?」
「もちろん、まだ誰にも分からない。でもだからこそ、希望は持ってた方がいいと思うんだ。」
「…ハリー…。あなたって…。」
「何?」
「ううん、いいの。私も希望を信じてみることにする。行きましょ!」


「トム・パリス? トミーの坊やなら奥のE棟の独房にいるぜ。」
管理等のエントランスで、カウンターの向こうに座った太り過ぎの係官がぶっきらぼうに顎をしゃくった。
「ど、独房? トムはそんな、重罪犯じゃないはずだぞ!」
「まさかここで、また何かやらかしたんじゃないわよね?」
「さあな。会いに来たんなら本人に聞きゃいいだろ。面会時間は10分だけだ。看守について行きな。」
係官が指名した看守は制服の前がはち切れそうな大男で、何日もシャワーを浴びないのか汗臭い。何やら金属製の棒を右手に持ち、2人について来いと合図すると、先に立って歩き出した。
長い渡り廊下を抜けてE棟に入ったところで、トレス中尉がキムに近寄り話しかける。
「…ねえ、あの棒一体何だと思う?」
キムは首を左右に振る。
「僕はあんまり、考えないようにしてるんだ。」
E棟と呼ばれる建物は、中央を突っ切る長い廊下の両側に独房がズラリと並び、それが何層も上に重なっている、巨大な養鶏場のような造りだった。
2人がしゃべり合って歩いている間にも、大きな罵り声が聞こえると看守はその独房に突進し、フォースフィールドを解除したかと思うとくだんの棒を振りかざす。その棒が身体に触れたとたん、囚人は激しく痙攣し、声も上げずにくずおれた。
「電気ショックよ! 信じられない、ずっと昔に禁止されたはずじゃ…。」
「予想が当たってもちっともうれしいと思わないけど…。仕方ないさ。ここはトムの悪夢の世界で、ほんとのオークランドじゃないんだから。」
「それにしたって酷すぎるわ!」
「トムにとっては、きっとそれほど辛かったってことなんだよ。」
「…ここだぜ、お2人さん。坊やはお休み中みたいだが。」
大男がやっと辿り着いた一番奥の独房の前で立ち止まり、中を覗き込みながら言った。