I'll Lead You Home (第4話)

タリスマン

艦長がトレスとキムを伴なって医療室に入って行くと、トゥボックと副長がドクターに手順を説明しているところだった。扉の開く音に反応して、ドクターが振り向く。
「艦長、お2人からの説明で手順については了解しましたが…、1つ問題があります。」
「どんな?」
「本当にこの方法で、パリス中尉の魂とやらと接触出来るのか、何の保証もありません。」
ドクターの横で、トゥボックももっともらしく頷いている。
「もちろん、我々がパリス中尉の登場する夢を拡大解釈している可能性もあります。しかしながら、ここは賭けに出るべきでしょう。」
「賭けって…? 私たち、何をすればいいの?」
「方法は簡単なんだよ中尉。キム少尉と2人で、この脳波モニターの装置を付けて眠ってもらうだけだ。」
ドクターの単純すぎる説明に、トレスはかえって戸惑った。
「夢の中のトムに会いに行けってこと?」
「そうだ。そして、彼を捕らえている記憶の世界から救うんだよ。」
ドクターの後ろにいたチャコティが、一歩前に出て来て言った。
「だけど、どうやって? 夢なんて、普通はコントロール不可能でしょう?」
キム少尉は完全に、途方に暮れた表情だ。
「君たちが眠りに入る前に、私との間で弱い精神結合を行う。このリンクで私がある程度まで、君たちの行く先をガイドすることが出来るだろう。私自身も夢に入れれば理想的だが、パリス中尉が助けを求めたのは君たちだけだ。よけいな人間が入り込む危険は冒せない。」
「よく分ったわトゥボック。2人とも、準備はいい?」
「眠るだけでいいんならやってみます、艦長。あんまり自信ないけど…。」
と、まだ戸惑い気味のキムに、
「私は何とかなると思う。とにかく当たって砕けろです。」
トレスはかなり積極的だ。
「ちょっと待ってくれ、2人とも。これを身につけて眠るといい。」
副長が差し出したのは、5センチ四方の平べったいドーナツ型の石がくくりつけられた2つの革紐のペンダントだ。
「“目覚めの石”と呼ばれてる。我々の先祖が夢見の旅に使っていたものだ。夢から戻りたい時に触れるといい。」
「素晴らしい。」
トゥボックが片眉をはね上げる。
「目覚めの合図を決めておいた方がよいと、進言するところでした。この石があれば完璧です。」
「あ、それならちょっと待った!」
キム少尉が腕をもぞもぞ動かし、ユニフォームの腰の位置にあるポケットを探って黒い木綿の糸に括りつけられた緑の石を引っ張り出す。
「これも持って行きます。おばあちゃんにもらったもので…、翡翠は中国の魔除けのお守りなんです。」
私のお守りはこれです、艦長。」
トレスは胸のコムバッジに、そっと手を触れた。
「トムとの絆の証なんです。2人とも艦隊のはみ出し者だったのに、艦長が拾って下さったから…。」
そう言いながら顔を上げたトレスの目の前に、ジェインウェイ艦長のはにかんだような笑顔があった。

トレスとキムが横たわる、バイオベッドの間にトゥボックが立ち、2人の額に同時に手を触れて精神結合が完了すると、医療室の照明が落とされた。
「行ってらっしゃい、2人とも。トムをお願いね。」
「必ず見つけます。」
「おやすみなさい、艦長。」
ほとんど同時に瞳を閉じた2人の士官をしばらく見守った艦長だったが、副長に合図するとブリッジに戻るため連れ立って扉に向かい、ドクターも明るい場所でモニターするため、照明のともるラボに移動した。
薄暗い医療室では3人の右耳の下に取り付けられた小さな脳波モニター装置だけが、静かに明滅を繰り返している。