ASTRO TWIN (後篇)

 周到な準備が功を奏したのか、マキでの初めての任務は滞りなく進む。何事もなくタイクン3号星にたどり着き、荷物の受け渡しも済んで、予定よりかなり早めに帰路につくことが出来た。
「何だか拍子抜けだな…。」
「カーデシア領から離れるまでは気を抜けないぜ、トム。パトロール船がウヨウヨしてるはずだ。」
コパイロット席のパリスが隣席のロカルノに声をかけると、即座に返事が返って来る。頷いてセンサー監視に戻ったパリスは、ロカルノの言葉の正しさを痛感することになった。
「ニック、あんたのせいじゃないと思うけど、センサーにカーデシアのパトロール船が映ってる…。こっちに向かって来るみたいだけど?」
「もう見つかっちまったのか。予想してたよりずい分早いぞ。」
「どうする? 臨検で止められるとまずいんだろ?」
「仕方ないさ。向こうの指示に従うフリして、ドッキングする瞬間に通常エンジンの最高速度で逃げるんだ。タイミング的にはそれしかないと思うんだけど…。」
「分かった。」
「それともう一つ。悪いけどトム、操縦代わってもらえるかな?」
「いいけど…君の方が経験豊富なんじゃないのか?」
「だからさ、トム。お手並み拝見ってことだよ。」
ロカルノが悪戯っぽい笑みを見せたことでパリスの気持ちも落ち着き、予想通り近付いて来たパトロール船に停止を勧告される頃には、完全にリラックス出来ていた。

船尾にドッキングの衝撃が来て、パリスは直ちにエンジンをふかし、船を発進させた。
貨物船のエンジンが完璧なタイミングで火を噴いたため、カーデシアのパトロール船は前方のナビゲーションアレイを焙られ、航行不能に陥った。だが逃げ切る寸前、パトロール船から発射された砲火が貨物船の左舷コパイロット席をかすめる。コンソールが爆発して、ロカルノが吹っ飛んだ。
「ぐあッ!」
「ニック!」
「トム、そのまま飛ばせ! もう少しでワープに…。」
言葉が途切れ、ロカルノは意識を失ったらしい。パリスは貨物船を予定通りの座標位置でワープに叩き込むと、医療キットを引っ掴んでロカルノの傍にかがみこんだ。
「俺たちがアストロツインなら、あんたは大丈夫だぞニック。この俺がピンピンしてるんだからな。」
ロカルノは苦しげに閉じていた目を開き、パリスの声に口の端をひん曲げて意識のあることを伝えた。
「…トム、すまん…。ワープアウトする場所でたぶん…艦隊の連中が待ってるはずだから…。」
「何だって? おいニック、まさか艦隊に通報したんじゃないだろうな?」
使い勝手の悪いマキの医療用トリコーダーと格闘しながら、パリスは声を荒げた。
「救難信号…送っただけだよ…。」
「なっ…。それじゃ通報と同じことだろ! もうすぐチャコティたちとランデヴー出来るんだから救助なんて必要ないのに、どうしてまた…。」
スキャン結果を読み取り、パリスは思わず言葉を飲み込む。
「トム…俺もあんたも、本来艦隊にいるべき人間だ…。マキにいたって腐って行くだけさ…。真面目に刑期を務めるんだよ…そうすりゃ戻れる可能性も…。」
「バカ言うな! あんたはともかく、俺は3人も死なせたんだ! 戻れるチャンスなんかあるわけ…。」
「…トム、彼女が死ぬ間際に言い残したことだ…。俺の運命を変える男が…現れるって。そいつが俺を艦隊に…引き戻してくれることが…星占いに出たんだって…。」
トリコーダーが甲高い警告音を上げ始め、成す術のないパリスは思わず床に叩きつけた。
「頼むよトム…もう一度飛びたいんだ…艦隊一のパイロットとして…。俺の夢を…トム…。」
ロカルノの瞳からは急速に生気が失われ、瞳孔が一杯まで開き切る様子を、パリスはただ眺めることしか出来なかった。

ワープを抜けると、チャコティの指揮するマキ船はどこにも見当たらす、代わりにU.S.S.ドレイクの船影が近付いて来た。

逮捕後の厳しい取調べが始まったが、パリスはマキを裏切り、救難信号を発したのは自分だという主張を、頑として曲げなかった。ロカルノの名誉をこれ以上、汚さないことを密かに誓っていたのだ。
オークランド刑務所に送られ、マキの受刑者達から裏切り者として集団リンチの洗礼を受けた時さえ―どれほど酷く殴られても―パリスは決して口を開かず、じっと耐え続けた。

そして今日。
「おめでとう、パリス中尉!」
ヴォイジャーの作戦室での、ジェインウェイ艦長の温かい笑顔と握手のさなか、自分の手に三人目の誰かの手が重ねられるのを、パリスははっきりと感じ取っていた。

『俺の夢を叶えてくれ、トム。』

そうさ、ニック。いつだって俺は、一人じゃなかった。だからこそどんなことにも耐えられたんだ。これからも分かち合っていこう。俺たちは同じ運命を分け合う双子なのだから。

‐終わり‐

あとがき

このFanficも以前から書きたかった話で、TNG第5シーズン“悲しみのアカデミー卒業式”に登場した若きマクニール氏演じるニック・ロカルノ候補生とトム君のクロスオーバーストーリーになってます。
ロカルノはホントに存在感があって、印象深いキャラでした。う~ん、もしかして彼の存在があったからトム君ファンになったのかな…?
そのわりにその後のトム君は可もなく不可もなさそうなフツーの艦隊士官で終わっちゃいましたけど…^^;。
まぁとにかく、このお話はトム君が逮捕される直前、マキにいた時のエピソードってコトになってます。
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