Rest your Wings -翼を休めて- (前編)

「第2ホロデッキでフェイザーが発射されました。」
ブリッジの平穏を破るコンピュータ音声に先ず反応し、弾かれるように立ち上がったのはチャコティ副長だ。
「怪我をした者はいるか?」
「パリス中尉が医療室に転送されています。」
「何だと?」
この報告には艦長ジェインウェイも落ち着いて座ってなどいられない。一瞬腰を浮かせ、副長と懸念の浮かぶ目線を交わす。
「済みません艦長、ちょっと様子を見て来ます!」
それだけ言うと返事も待たず、チャコティは後方のターボリフトに走った。
副長の反応が速かったのには理由がある。今日の第2ホロデッキ「サンドリン」では、元マキのクルーが集まってプール大会が催されているはずなのだ。
「よりによってパリスとは、連中は何をやらかしたんだ?」
呟きながらまずは医療室に飛び込む。
目の前のバイオベッドにパリスが横たわり、傍らで医療用スキャナを掲げるドクターの向かいに、心配そうな表情のハリー・キムもいた。
「何があったんだハリー?」
「副長…済みません、僕とトムはプール大会とは関係なくカウンターでリッキーと飲んでたんで、きっかけが何だったのかよく分からないんですが、気がつくとプール台の傍で小競り合いが始まってました。
かなり険悪な雰囲気だったんでトムが割って入って、喧嘩するなら店を出ろとか何とか言ったんです。そしたら中の一人…バーネット少尉がフェイザーを抜いたのでみんな一瞬びっくりして。でも安全装置があるし大事にはならないと思ってたら、いきなり発射音がしたんです。
その後はもう…すぐ飛び出してバーネットからフェイザーを奪ったけど、トムが倒れて…遅過ぎました。」
「…感謝してるよハリー。お前がいなきゃどうなってたか。」
ベッドの上から聞こえるパリスの声はいつもの張りはないものの、はっきりした口調で副長を安心させた。
「安全装置が解除されてたなんて全然気づかなくて、自分のプログラムなのに間抜けもいいとこですよね…。」
「よりによってバーネットか。あいつは俺よりお前を嫌ってるからな。」
「…そうらしい。面と向かって裏切者は引っ込んでろって言われましたよ。ホントの事だから言い返せなかったけど…。」
そう言って自嘲するパリスの横で、キムが居心地悪そうに身じろぎしている。
「すまんがハリー、この一件の報告書をなるべく早く読みたいんだが…。」
「分かりました、すぐかかります!」
ほっとしたような表情で返事を返し、早足で扉の向こうに消えるキムを見送ると、副長は改めてパリスと向き合った。ところが…。
「副長、まだ何か?」
一通りのスキャンを終えてラボに引っ込んだはずのドクターが、薬品類を乗せたワゴンを押しながら戻って来た。
「ああ、パリスからはまだほとんど話を聞いていないからな。」
「副長、ちょっと。」
ドクターに手招きされ、言われるままトムのベッドから離れドクターとともに壁際に後退する。
「スタン・ビームとはいえ、中尉は脳天に受けてしまったんです。脳震盪だけで済むとは思えない。無理はさせられません。」
「何だと、バーネットはパリスの頭を狙って撃ったっていうのか?」
「中尉から直接事情を聞きたいお気持ちは分かります。でも今は…とにかく休ませませんと。」
「…仕方がないな。回復したら知らせてくれるか?」
「もちろんご連絡します。」
チャコティ副長が不承不承に医療室を後にする時、パリスはじっと天井を見つめたままだった。