ヴァイオレット 第2話

 「…悪い変化じゃないんでしょう? どうしてそれが不満なの、ベラナ?」
「いいえ、艦長。私は文句を言いに来たんじゃありません! あれは絶対トムじゃない。前みたいにエイリアンが入れ替わったとか、何か原因があるはずなんです。医療室で彼を調べさせて下さい!」
作戦室内を歩き回って喚き立てるトレスを、ソファーに身を沈めたままの艦長が目で追っている。
「あなたの言う通り何かあったとしたら、いつ頃からか見当はついてるの?」
トレスはいい加減でウロウロするのをやめ、テーブルの向こうのジェインウェイに向き直った。
「あのクリスタルです、艦長。あれを持ち帰って以来の彼は…。」
「お行儀がよくなり過ぎた?」
「ほんとにそうです。瞳の色まで変わってしまって…。」
「そこが妙だわ。そう言えばあのクリスタルの分析結果、報告がまだだったのよ。確認してみる必要がありそうね。」

同じ頃、チャコティ副長がパリスの私室を訪ねていた。
「これは副長。どうぞ座って下さい。」
「いいんだトム。休んでるところを悪いがな、最近鏡を見るか?」
「もちろん、毎日見てますが。」
副長の奇妙な質問に、パリスは怪訝な表情だ。
「まさかトム、自分の本当の瞳の色を忘れたりしてないだろうな。」
「ああ、青から紫に変わったことでしたら、もちろん自覚してますよ。原因はよく分らないけど、ひょっとしたらあのクリスタルの影響なのかな? トゥボックが弱い放射線がどうとか言ってましたから…。」
「おそらく、そうだろう。どうして医療室で調べてもらわないんだ?」
「だって、悪い変化じゃないでしょう? 自分で言うのも変だけど、ベラナもこのところ幸せそうだし、ドクターやハリーだって喜んで…。」
「お前、本当にそう思うのか? 彼らは心配しているぞ。私もだがな。」
この一言が、なぜかパリスを落ち込ませたようだ。心なしか、肩を落としたように見える。
「…心配だなんて。みんな喜んでくれてるんだと思ってました。僕だってこの数日は肩の荷が降りた感じで楽だったし。いつもよりずっと、素直でいられたから…。」
今度は副長が、彼の言葉に驚いているようだ。
「素直でってお前、これまでそうじゃなかったんだな?」
「だって副長。ストレートにありがとうとか済みませんとか、愛してる、なんて思いっ切りカッコ悪いじゃないですか!」
チャコティ副長は口をあんぐり開けたまま、耳まで真っ赤になって突っ立っている主任パイロットを見つめた。確かにこいつはトムじゃない。と言うより、彼の皮肉屋の仮面がすっかり剥がれ落ちている。他の誰かならともかく、自分を目の前にしては決してあり得ないことだろう。これは何とかしなければ…。
副長は部屋を隅々まで見回し、ベッドサイドに鎮座しているクリスタルを見つけた。
「あそこが定位置なのか?」
指さされた方向を目で追って、パリスは軽く頷いた。
「ええ、今は。最初の2晩くらいは、抱き枕にしてたけど。」
「抱き枕にしちゃ、小さ過ぎやしないか?」
「それに硬かった。でも暖かさが心地よくて最高で…。ちょっと待ったチャコティ!」
パリスが言い終わらぬうちに、副長がベッドサイドまで進入し、クリスタルを手に取ったのだ。
「なるほど、もっと冷たいもんだと思ってたが。とにかく、ちゃんとした分析結果が出るまではここに置いとく訳にいかん。しばらく俺が預かるがいいな?トム。」
「仕方ないけど…。それがなくなったらどうなっちゃうのかな、僕は。」
「恐らく、元のお前に戻れるさ。」
励ますようにパリスの肩に手を置いて、副長が出て行った後もしばらくの間、何もなくなったベッドサイドテーブルを、パリスは名残惜しそうに見つめていた。