I'll Lead You Home (第9話)

夜明け前 ‐01

「…そこに誰かいるのかね?」
突然響いた聞きなれない男の声に、ベラナ・トレスは飛び上がって驚いた。
声のした方向へ首を回すと、いつの間にか周囲の暗闇が薄れ、夜明け前の薄暮の状態にまで明るくなっている。そしてトレスの視線の十数メートル先から、宇宙艦隊の制服らしきものを身に着けた初老の男がこちらに歩み寄ってくる。近付くにつれて明らかになったその男の階級は“提督”だ。
「君は誰だね?」
トレスの手前数メートルの距離まで近付いて、男が尋ねる。艦隊士官らしく背筋を伸ばし、後ろで手を組んだ姿勢だ。
「トレスです、ベラナ・トレス中尉。」
「地球人かね?」
「いいえ、クリンゴンとのハーフです。」
本物の艦隊士官なら一目瞭然のはずだが…。トレスは訝った。
「トム・パリスの艦の仲間の一人だな?」
「ええ、それが何か…?」
男が組んでいた両手を拡げ、顔に不器用に笑顔を浮かべる。
「全く君たちには驚かされる。彼一人のためだけに、本当にここまでやって来るとはな…。」
「トムは私の大切な人よ、当然のことじゃない! それよりあなたこそ誰なのよ? 艦隊のユニフォーム着てるけど、本物のはずないわよね?」
「…私はオーエン・パリス提督、トムの父親だよ。」


医療室では半ば閉じられていたトゥボックの瞳が見開かれ、その手が胸のコムバッジに伸びていた。
「トゥボックより艦長。」
『どうしたの?』
「彼らの夢をモニターした結果、パリス中尉の取引き相手が誰なのか見当がついたと思います。もう私がここにいなくてもリンクが切れる心配はありませんので、今から第2ホロデッキに来て頂けますか?」
『もちろんよ、すぐ向かうわ。』
“第2ホロデッキ”と聞いて、艦長にも思うところがあったのだろう。トゥボックの知る限り、彼女はよけいな質問で時間を無駄にしたことがない。地球人にしてこの効率の良さだ。パリス中尉は救われたなら、先ずそのことに感謝すべきだとトゥボックは思う。

トゥボックが第2ホロデッキに到着すると、艦長は既に扉の前で待機していた。
ヴァルカン人は彼女に軽く会釈を返すと、直ちに指令を下した。
「コンピュータ、ホロデッキプログラム“パリス7‐α”起動! アクセスコードトゥボックπ‐α!」
「ジェインウェイλ‐3!」
艦長も間髪を入れず応じたことで、トゥボックと同じ結論に達していることが明らかになった。扉が開くとお馴染みのシェ・サンドリンの店内が出現したが、プール台の代わりにホールに置かれていた椅子やテーブルは壁際に積み上げられ、閑散とした雰囲気だ。
「コンピュータ、ホロ・キャラクター“ラミアー”再生。」
「…待って、彼女は消滅したんじゃなかったの?」
「パリス中尉の報告書によれば、彼女は故郷に帰ったはずですよ。そして、人間たちの脳の無意識領域にアクセス可能な彼らにとって、物理的な距離など問題ではないでしょう。彼女は我々の呼び出しに、応じてくれると思いますが…。」
「…その通りよトゥボック。そしてあなたが、ジェインウェイ艦長なのね?」
2人の目の前で、“ラミアー”がゆっくりと実体化する。
燃えるような赤毛と吸い込まれそうなコバルトブルーの瞳。ジェインウェイは数年前、パリスが彼女に心を奪われたのも無理からぬことだと得心がいった。
「初めましてかしら、ラミアー。早速質問で悪いけど、あなた今度は、パリスに何をしたの?」
「艦長、誓って本当のことですが、パリス中尉と取引きするきっかけになったのは、中尉自身の心が発した強いメッセージだったんです。」
「…メッセージとは?」
ヴァルカン人が珍しく興味をひかれた様子で尋ねる。
「もちろん、中尉自身は自分がそんなもの発してたなんて自覚してないと思うけど、私の父がそれを受け取ってしまったの。そしてその思いの強さに驚いた父は、自分の復活のエネルギーに利用できると信じてしまったのよ…。」
「ラミアー、復活って何のこと?」