I'll Lead You Home (第3話)

メッセージ

「…もう一度、夢の内容で確認したいの。窓から何が見えたって言った? ベラナ。」
朝の会議室で、ジェインウェイ艦長が円陣を組んで座る上級士官の椅子の後ろを歩き回りながら尋ねる。
「山です、艦長。遠景に霞んで見えました。」
「そうです。ギザギザで、鋸の歯みたいな形の…。」
キムもトレスの証言を補足する。艦長は額に手を当て、天を仰いだ。
「…何てこと! そこはニュージーランド島よ!」
「まさか、トムが収容されてたオークランドの更生施設だって言うんですか?」
チャコティ副長が怪訝な表情で言葉を続ける。
「あなたがこの任務の前に、彼に会いに行かれたことは聞きましたが、この2人には無縁な場所だったはずでは?」
「おっしゃる通りです副長。ベラナとも、オークランドじゃないかって話し合ったんですが、行ったこともない場所が夢に出てくるものなのかどうか…。」
自分の見た夢にもかかわらず、キムも自信のなさそうな声だ。
「だけどオークランドだとすれば、彼らの見た夢がトムからのSOSかも知れない可能性が、高いってことだと思わない?」
艦長が歩き回るのをやめ、自分の椅子の背もたれに寄りかかって、一同を見渡しながら言った。
「ですが艦長、パリス中尉はもう亡くなってるんですよ? 助けを求めていたと分ったところで、今さら手遅れなんじゃないですか?」
パリスの後任として中尉に昇進し、先月から上級士官に加わったベイタードの発言に、驚いたことにトレスが頷いて賛意を示す。
「その通り。トムは自分で死を選んだのよ。彼の魂が地獄に堕ちたからって、それは自業自得ってものじゃない?」
「待てよベラナ、そんな言い方って…!」
思わず声を荒げてしまったキムは、ここが会議室だったと思い出し、努めて冷静な声を出した。
「艦長。確かにトムは、ちょっと衝動的なところがあるし、破滅型みたいにも見えるけど、決して卑怯者じゃありません。僕は彼が、現世の辛さから逃れるために死を選ぶなんて、あり得ないと信じたいんです!」
「…俺も、キムに1票だ。」
静かだが力強い副長の声に、皆が一斉に顔を上げる。
「奴の欠点を挙げればキリがない。だが計算も出来ないほど愚かでもなかった。奴は何より、ヴォイジャーで艦隊士官に戻れた幸運をムダにしたくないと考えてたはずだ。俺は奴の死には、何か別の理由があったと思っているんだが…。」
「私としては、パリス中尉の自殺は何らかの取引に応じた結果ではないかと、疑っているのですが…。」
ヴァルカン人の声は平坦だったが、沈みがちだった会議室の空気が、一変する発言だった。
「だけど少佐…、トムが死を賭けた取引に応じるなんて、どんな見返りがあったんだろう?」
「我々の旅の目的は何だね? 少尉。」
「…まさか、地球へ帰る方法と引き換えに…?」
「確かに、あり得ない話じゃないわねトゥボック。」
艦長が考え深げに頷きながら、慎重に続ける。
「なのにトムは死に、我々はまだデルタ宙域を出られずにいるのは、どういう訳なのかしら?」
「取引に何らかの齟齬が生じたということでしょう。もちろん現段階では、全て推測でしかありませんが。」
「取引に失敗したから、トムの魂が捕まっちゃったってこと?」
「それもあるがね、トレス中尉。この場合逆の可能性の方が高いと思う。中尉の魂が過去に捕らえられてしまったため、取引が成立しなかったのかも知れない。」
「…オークランドで何があったんだよトム。話してくれてたら…。」
「キム少尉、恐らく中尉は無自覚だったのだろう。パリス中尉のやや衝動的な性格が生得的でなく、心的外傷後ストレス症候群…いわゆるPTSDの症状から来るものだったとすれば、最も辛い記憶はふだん、無意識と呼ばれる領域に閉じ込められていたはずだ。中尉はその記憶が、自分の行動に影響を与えていたことにも、気付いていなかった可能性がある。」
「自分じゃ乗り越えたつもりだったかも、ってことよね。バカな奴…。」
「とするとトゥボック、死んで魂だけの存在になったために、いままで無意識下にあった世界が解放され、トムはそれに捕らえられちまってるってことなのか?」
「あくまでも推測の域は出ませんが、興味深い指摘ですねチャコティ副長。人間が霊魂や聖霊、あるいは神と呼ぶ存在と、脳の広大な無意識領域との関連については、様々な仮説があります。ただどれもまだ、実証されてはいませんが。」
「ありがとうトゥボック、副長。お陰で何が起きてるのか、推測の範囲だとしてもだいたいはっきりしたわね。だけど、問題は解決法よ。魂だけになったトムを見つける方法があるのかしら? ベイタード中尉の言うように、今さら手遅れなんじゃない?」
「艦長、そんなことはありません。パリスからのメッセージは明白だ。」
「おっしゃる通りです、副長。よろしければ艦長、1時間後にトレス中尉、キム少尉とともに医療室にお越し願えないでしょうか?」